ロードバイクのメンテナンスやカスタムにおいて、クランクの脱着は避けて通れない作業の一つです。しかし、「難しそう」「どんな工具が必要なの?」と、ついつい自転車店任せにしている方も多いのではないでしょうか?
ご安心ください。適切な知識と工具があれば、ロードバイクのクランク外しは決して難しい作業ではありません。
この記事では、ロードバイクのクランクを安全かつ確実に外すための準備から、主要なクランクタイプごとの具体的な外し方、さらには取り外し後のメンテナンスやトラブルシューティングまで、徹底的に解説します。この記事を読めば、あなたも自信を持ってクランクの脱着ができるようになりますよ。
ロードバイクのクランクを安全に外すための徹底準備と基礎知識
クランクを取り外す前に、まずはなぜ外すのか、どんなクランクが付いているのか、どんな工具が必要なのかといった基礎知識をしっかりと身につけておくことが重要です。準備を怠ると、思わぬトラブルや部品の破損に繋がりかねません。
なぜクランクを外すのか?メンテナンスからパーツ交換まで
ロードバイクのクランクを外す目的は多岐にわたります。主な理由としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 定期的な清掃・グリスアップ: クランクやボトムブラケット(BB)周辺に溜まった汚れを落とし、スムーズな回転を維持するため。
- ボトムブラケット(BB)の交換・メンテナンス: BBからの異音や回転不良がある場合、あるいは上位モデルへの交換時。
- チェーンリングの交換: 歯数の変更や摩耗による交換時。
- クランク自体の交換: 軽量化、剛性向上、Qファクター調整など、クランクセットを別のものに交換する際。
- 輪行時の分解: 飛行機や電車での長距離移動の際、自転車をコンパクトにするため。
- フレーム内部の清掃・点検: BBを外してフレーム内部を清掃したり、ワイヤーの交換をスムーズに行うため。
これらの目的を達成するために、適切な方法でクランクを外す技術はロードバイクオーナーにとって非常に役立ちます。
作業前に必ず確認!あなたのクランクの種類を特定しよう
クランクの取り外し方法は、その種類によって大きく異なります。誤った工具や方法を用いると、クランクやフレームを破損する原因となるため、まずは自分のロードバイクに装着されているクランクの種類を正確に把握することが肝心です。
主要なロードバイクのクランクタイプは以下の通りです。
- シマノ ホローテックII(Hollowtech II): ロードバイクで最も普及しているタイプの一つ。中空の太いシャフトが特徴で、左クランクアームの固定ボルト2本とプレロードキャップで固定されています。
- スクエアテーパー(Square Taper): 古いモデルやエントリーモデルに多いタイプ。BB軸の先端が四角錐状になっており、クランクはボルトで直接軸に固定されます。
- オクタリンク(Octalink)/ISISドライブ(ISIS Drive): スクエアテーパーより後の規格で、BB軸が多角形(オクタリンクは8角形、ISISは10角形)になっています。シマノがオクタリンク、その他メーカーがISISドライブを採用していました。
- SRAM DUB/GXP、CAMPAGNOLO Ultra-Torque/Power-Torque、FSA MegaExoなど: 各メーカー独自の規格があり、それぞれ専用の工具や外し方を必要とします。近年では、より大径の軸径を採用し剛性を高めているものが多いです。
ご自身のクランクがどのタイプか分からない場合は、クランクアームやチェーンリングに記載されているモデル名を確認し、メーカーの公式サイトなどで調べてみましょう。必要であれば、自転車店に相談するのも良い方法です。
クランク外しに必須の専用工具とその他の必要品
クランクの種類を特定したら、次に必要な工具を揃えましょう。多くの場合、専用工具が必要になります。ホームセンターなどで手に入る一般的な工具だけでは対応できないことがほとんどです。
必須の専用工具(クランクの種類によって異なります):
- ペダルレンチ(15mm): ペダルを取り外す際に使用します。薄口で力が入りやすい専用品が便利です。
- 六角レンチ(アーレンキー): 各種ボルトの取り外しに使用します。特に5mm、6mm、8mm、10mmあたりは頻繁に使用します。
- クランク抜き工具(コッタレス抜き): スクエアテーパーやオクタリンクタイプのクランクを取り外す際に必須です。
- BBツール(ボトムブラケットツール): ホローテックIIやその他のBBを外す際に使用します。BBの規格によって形状が異なります。
- プレロードキャップ工具(シマノ ホローテックII用): ホローテックIIの左クランクにあるプラスチック製のキャップを回すための工具です。
- トルクスレンチ: 一部のSRAM製クランクなどでT25、T30などのトルクスボルトが使用されている場合があります。
その他の必要品:
- ウエス・パーツクリーナー: 外した部品やフレームの清掃に。
- グリス: ネジ山やBBに塗布して固着防止やスムーズな動きを維持するため。
- トルクレンチ: 各ボルトを適切な締め付けトルクで締めるために推奨されます。部品の破損防止や安全確保に不可欠です。
- ゴムハンマー: 固着したクランクを軽く叩いて振動を与えたり、取り付ける際に使用する場合があります。
- 軍手または作業用手袋: 手の保護と滑り止めに。
工具の選び方と失敗しないためのポイント
工具選びは、安全かつスムーズな作業の鍵を握ります。以下のポイントを参考に、適切な工具を選びましょう。
- クランクの規格に合わせる: これが最も重要です。BBツールやクランク抜き工具は、あなたのバイクのクランク(BB)規格に合致したものを選んでください。不明な場合は自転車店に相談しましょう。
- 精度の良い工具を選ぶ: 安価な工具は精度が低く、ボルトの頭をなめたり、工具自体が破損したりする可能性があります。パークツール(Park Tool)、シマノ(Shimano)、ホーザン(HOZAN)など、信頼できるメーカーの製品を選ぶことをお勧めします。
- セット品か単品か: 初めてなら、必要な工具がセットになったものも便利ですが、使わない工具も含まれる場合があります。まずは必須の工具を単品で揃え、必要に応じて買い足していくのが効率的です。
- トルクレンチの活用: 特に重要なボルト(クランク固定ボルトなど)は、メーカー指定の締め付けトルクがあります。トルクレンチを使用することで、締めすぎによる破損や、緩みによる事故を防ぐことができます。
作業を始める前に知っておくべき安全対策と注意点
安全に作業を行うためには、いくつかの注意点を守る必要があります。
- 無理な力を加えない: ネジが固いからといって、無理に力を入れるとボルトの頭をなめたり、工具や部品を破損させたりする原因になります。潤滑剤の使用や、正しい姿勢で作業することが重要です。
- ネジの締め付け方向を確認: 特にペダルやBBは、左右でネジの方向が異なる場合があります(左ペダルは逆ネジ)。無理に回すとネジ山を破損させるので注意しましょう。
- 適切なトルク管理: 先述の通り、トルクレンチを使用し、指定されたトルクでボルトを締めることが重要です。
- 作業スペースの確保: 安定した場所で、十分なスペースを確保して作業しましょう。
- 怪我の防止: 軍手や作業用手袋を着用し、滑りやすい油やグリスが付着しないよう注意してください。
- 子供やペットが近づかない環境で: 作業中に工具が倒れたり、部品が転がったりして、怪我の原因になる可能性があります。
【重要】自転車の固定方法と作業スペースの確保
クランクの脱着作業は、自転車が安定しているかどうかが成功の鍵を握ります。
- 自転車の固定:
- ワークスタンドの使用: 最も推奨される方法です。自転車をしっかり固定でき、両手が自由になるため、効率的かつ安全に作業を進められます。
- 逆さにして作業: ワークスタンドがない場合、自転車を逆さにしてサドルとハンドルで支える方法もあります。ただし、安定性に欠け、キズがつく可能性もあるため、段ボールや毛布などで保護しましょう。
- 立てかけ式スタンド: 自転車を支えるタイプのスタンドでも可能ですが、クランクを回す際に不安定になることがあります。壁などに立てかけ、慎重に作業してください。
- 作業スペースの確保:
- 十分な広さ: クランクを回すスペースや、工具を置いておくスペースが必要です。最低でも自転車の周り1m程度の空間を確保しましょう。
- 明るさ: 手元がはっきり見えるよう、十分な照明の下で作業しましょう。
- 床の保護: グリスやオイルが垂れる可能性があるため、新聞紙や段ボールを敷いて床を保護することをおすすめします。
【写真で解説】主要タイプ別ロードバイククランクの具体的な外し方
ここからは、いよいよ具体的なクランクの外し方について解説します。主要なクランクタイプごとに手順を見ていきましょう。基本的な流れは共通していますが、細部の工具や手順が異なりますので、ご自身のクランクの種類に合わせて読み進めてください。
※本記事では写真の直接掲載はできませんが、各ステップを詳細に解説することで、実際の作業がイメージできるように努めます。
まずはペダルを外す!左右のネジ方向にも注意
クランクを外す前に、まずはペダルを取り外す必要があります。ペダルは左右でネジの締め付け方向が異なるため、注意が必要です。
- 自転車を安定させる: ワークスタンドに固定するか、安定した場所に立てかけます。
- ペダルの位置を確認: 作業しやすいように、クランクを回してペダルが水平よりやや前方にくる位置に調整します。
- 右ペダルの取り外し:
- 右ペダル(駆動側、チェーンがある方)は正ネジです。反時計回りに回すと緩みます。
- ペダルレンチ(15mm)をペダルの根元の平らな部分にしっかりとかけ、進行方向(自転車の前方)に向かって力を加えるように回すと緩みやすいです。(後輪に近づけるイメージ)
- 固着している場合は、CRCなどの浸透潤滑剤を少量塗布し、しばらく置いてから試すと良いでしょう。
- 左ペダルの取り外し:
- 左ペダル(非駆動側)は逆ネジです。時計回りに回すと緩みます。
- こちらもペダルレンチを根元にかけ、進行方向(自転車の前方)に向かって力を加えるように回すと緩みやすいです。(後輪から遠ざけるイメージ)
- 右ペダルと同様、固着時は潤滑剤を試してください。
- 両方のペダルが緩んだら、手で回して完全に外し、安全な場所に保管します。
シマノ ホローテックIIクランクの外し方詳細
ロードバイクで最も普及しているシマノのホローテックIIクランクの外し方です。比較的簡単に取り外せるのが特徴です。
※写真イメージ:左クランクアームの固定ボルト2本、プレロードキャップ、BBカップとクランクシャフトが一体となった右クランク
- 左クランク固定ボルト2本を緩める:
- 左クランクアームの側面にある2本の六角ボルト(通常は5mm六角レンチ)を、交互に少しずつ緩めていきます。完全に外す必要はありません。
- ボルトが緩んだら、指で回せる程度まで緩めておきます。
- プレロードキャップを緩める:
- 左クランクアームの先端、クランクシャフトの中心にあるプラスチック製のプレロードキャップを、専用工具(TL-FC16など)を使って反時計回りに回して外します。これはクランクの遊びを調整するためのもので、あまり強い力で締まっていません。
- キャップが外れたら、安全な場所に保管します。
- 左クランクアームを引き抜く:
- プレロードキャップを外した穴から、左クランクアームを真っ直ぐに引いて外します。
- 少し固い場合は、ゴムハンマーで左クランクアームの先端を軽く叩いて振動を与えると抜けやすくなることがあります。無理に引っ張らないように注意してください。
- 完全に外れたら、左クランクアームとそれに繋がっているシャフト(右クランクと一体)を、右側から引き抜きます。
- クランクセットの取り外し完了: これでクランクセット全体が車体から取り外せました。
スクエアテーパー/オクタリンククランクの外し方とコツ
古いモデルやエントリーモデルに多いスクエアテーパー、あるいはオクタリンクタイプのクランクの外し方です。専用のクランク抜き工具(コッタレス抜き)が必要になります。
※写真イメージ:クランク固定ボルトを外したクランク、クランク抜き工具をセットしている様子
- クランク固定ボルト(またはキャップ)を外す:
- 左右のクランクアームの中心にあるボルト(通常は六角ボルトまたは8mmのソケットボルト)を緩めて外します。
- ボルトがアルミ製のキャップで覆われている場合は、まずそのキャップを外してから内部のボルトを緩めます。
- これらのボルトはかなり固く締まっていることが多いので、六角レンチを使う場合は柄の長いものや、レンチにパイプを被せて延長するなどして、しっかり力をかけられるように工夫しましょう。
- クランク抜き工具をセットする:
- クランク固定ボルトを外した穴に、クランク抜き工具の大きい方のネジ山を、クランクアームの内側のネジ山にしっかりと奥までねじ込みます。ここが非常に重要です。ネジ山が斜めになっていたり、十分に奥までねじ込めていないと、工具やクランクのネジ山を破損させる原因になります。手で回せるだけ回し、最後にレンチで締め付けて確実に固定してください。
- クランクを押し出す:
- クランク抜き工具の真ん中にある小さい方のネジ山(軸)を、レンチを使って時計回りに回していきます。この軸がBBのシャフトを押し、クランクアームを外側に押し出します。
- 最初は非常に固いですが、力を込めてじわじわと回していくと、突然「パキン!」という音とともにクランクがBB軸から外れる感触があります。この音は正常ですのでご安心ください。
- 左右のクランクアーム両方でこの作業を行い、取り外します。
- クランクセットの取り外し完了: これでクランクセット全体が車体から取り外せました。
その他の特殊なクランク規格の外し方(SRAM DUBなど)
シマノホローテックII、スクエアテーパー/オクタリンク以外のクランク(SRAM DUB/GXP、CAMPAGNOLO Ultra-Torque/Power-Torque、FSA MegaExoなど)は、それぞれ独自の外し方をします。
- SRAM DUB/GXP: SRAMのクランクは、多くのタイプで8mmの六角レンチ一本で左クランクアームを外すことができます。GXPは左クランクボルトを緩めて引き抜くだけで、DUBはさらに右クランクとシャフトを引き抜く形になります。メーカーによっては専用の固定ボルトやアダプターが必要な場合もあります。
- CAMPAGNOLO Ultra-Torque/Power-Torque: カンパニョーロのクランクは、左右のクランクシャフトが中央で結合する「Ultra-Torque」と、右クランクにシャフトが一体化した「Power-Torque」があります。Ultra-Torqueは中央の大きな六角ボルトを緩めると左右に分離し、Power-Torqueは専用工具(パワートルククランク抜き)が必要です。
- FSA MegaExoなど: 他メーカーの2ピースクランクは、基本的にはホローテックIIと似た外し方をしますが、プレロードの調整方法や固定ボルトの数が異なる場合があります。
これらの特殊な規格のクランクを取り外す際は、必ずメーカーの取扱説明書や公式の分解手順を確認し、必要に応じて専用工具を別途用意してください。誤った工具の使用や無理な分解は、部品の破損に直結します。
固着したクランクを安全に外すための最終手段
長期間メンテナンスをしていなかったり、雨天走行が多かったりすると、クランクがBB軸に固着してしまい、通常の力では外れないことがあります。このような場合の最終手段をいくつかご紹介しますが、無理は禁物です。
- 浸透潤滑剤の使用:
- クランクとBB軸の接合部、またはクランク固定ボルトのネジ山にCRC-556などの浸透潤滑剤をたっぷりと吹き付けます。
- すぐに作業せず、数十分から一晩放置して浸透させます。時間を置くことで、固着したサビや汚れを緩める効果が期待できます。
- 再度、正しい工具でゆっくりと力を加えてみましょう。
- ゴムハンマーによる衝撃:
- 浸透潤滑剤を塗布した後、クランクアームの先端をゴムハンマーで軽く叩いて、BB軸との間に振動を与えます。この振動で固着が緩むことがあります。
- 金属ハンマーで直接叩くと、クランクが変形したり破損したりする可能性があるので、必ずゴムハンマーを使用し、過度な力を加えないでください。
- 熱を加える(最終手段、推奨は低め):
- 非常に固着している場合、ヒートガンやドライヤーでクランクアームのBBとの接合部を温め、金属をわずかに膨張させることで、固着が緩むことがあります。
- ただし、この方法はBBやフレームの塗装、カーボン素材にダメージを与える可能性があり、非常にリスクが高いです。自己責任で行い、細心の注意を払う必要があります。特にカーボンフレームには絶対に行わないでください。
- 専門家への依頼:
- 上記の方法を試しても外れない場合や、ご自身での作業に不安を感じる場合は、無理せずプロの自転車店に相談しましょう。専用の工具や技術で安全に外してくれます。
クランク外し後のメンテナンスとよくあるトラブルシューティング
クランクを無事に外すことができたら、そのまま新しいパーツを取り付けるのではなく、この機会に周辺の清掃やメンテナンスを行いましょう。また、よくあるトラブルとその解決策も知っておくと安心です。
外したクランク周りの徹底清掃とグリスアップ術
クランクを外した状態は、普段見えない部分までアクセスできる絶好の機会です。しっかりと清掃・グリスアップを行い、部品の寿命を延ばし、パフォーマンスを維持しましょう。
- クランク、チェーンリングの清掃:
- 外したクランクセットやチェーンリングに付着した泥、油汚れ、古いグリスなどをパーツクリーナーとブラシ、ウエスを使って徹底的に清掃します。
- チェーンリングの歯間に入り込んだ汚れも丁寧に除去しましょう。
- BBシェルの清掃:
- フレームのBBシェル内部(BBが収まる部分)も、ウエスやブラシを使って汚れを拭き取ります。水が入って錆びたり、異物が混入したりしないよう注意深く行います。
- 特にフレームとBBカップの間に水や泥が入り込むと固着の原因となるため、この機会に綺麗にしておきましょう。
- グリスアップ:
- 清掃が終わったら、BB軸の接合部(スクエアテーパーなど)や、BBカップのネジ山、クランクシャフトなど、金属同士が接触し、滑りを良くしたい部分や固着を防ぎたい部分に新しいグリスを薄く均一に塗布します。
- 特にネジ山にグリスを塗ることで、次回取り外す際の固着を防ぎ、適正トルクで締めることができます。
- ただし、カーボンパーツのクランプ部など、グリスが不適切な場所もあるので、不明な場合はメーカーの指示に従いましょう。
ボトムブラケット(BB)の確認と必要に応じた脱着
クランクを取り外したら、同時にボトムブラケット(BB)の状態も確認しましょう。BBはロードバイクの回転性能と快適性に大きく影響する部品です。
- BBの確認:
- BBを指で回してみて、ゴリゴリとした感触がないか、スムーズに回転するかを確認します。
- 左右にガタつきがないかもチェックしましょう。
- 異音や回転不良がある場合は、BBの寿命がきている可能性が高いです。
- BBの脱着:
- BBの交換や清掃を行う場合は、BBツールを使用して取り外します。BBのタイプによって、ねじ込み式(BSA、ITAなど)と圧入式(BB30、PF30、BB86など)があり、それぞれ専用の工具と手順が必要です。
- ねじ込み式BBは、左右でネジの方向が異なることが多いので注意が必要です。(通常、駆動側が逆ネジ、非駆動側が正ネジ)
- 圧入式BBは、専用のプレス工具やリムーバーが必要となり、作業難易度が高くなります。自信がない場合は自転車店に依頼するのが賢明です。
新しいクランクを取り付ける際の注意点とトルク管理
清掃・メンテナンスが完了したら、新しいクランクを取り付けます。取り外しと同様に、取り付けも適切な手順とトルク管理が重要です。
- グリスアップ: 取り外し前にグリスアップした箇所に加え、BB軸やクランクの接合部、固定ボルトのネジ山に薄くグリスを塗布します。
- クランクの挿入: クランクシャフトをBBシェルに真っ直ぐに差し込みます。無理に押し込んだり、斜めに入れたりしないよう注意してください。
- ボルトの締め付け:
- シマノホローテックIIの場合、まず右クランク一体のシャフトをBBに通し、左クランクアームを挿入します。プレロードキャップを工具で締め付け、クランクのガタつきがなくなるまで調整します(締めすぎ注意)。
- 次に、左クランクアームの2本の固定ボルトを、メーカー指定のトルク(通常12~14Nm)で交互に少しずつ均等に締めていきます。片方だけ先に締めると、クランクが歪む原因になります。
- スクエアテーパーやオクタリンクの場合、クランクがBB軸の奥までしっかりとはまっていることを確認し、固定ボルトをメーカー指定のトルクで締めます。
- トルクレンチの活用: 各ボルトの締め付けには必ずトルクレンチを使用しましょう。締め付けトルクが不足すると緩みの原因に、締め付けすぎるとボルトやクランク、BBの破損に繋がります。メーカー指定のトルク値を厳守してください。
- ペダルの取り付け: ペダルも忘れずに取り付け、ペダルレンチでしっかりと締めます。右ペダルは正ネジ、左ペダルは逆ネジです。こちらも適正トルク(約35~40Nm)で締め付けることが推奨されます。
クランク外しで困った時のQ&Aと解決策
作業中に起こりがちなトラブルと、その解決策をまとめました。
- Q1:クランクが固くてボルトが緩まない、クランクが抜けない。
- A1: 無理に回すとネジ山をなめたり、工具を破損させたりします。浸透潤滑剤を塗布し、数時間~一晩放置してから再度試しましょう。ゴムハンマーで軽く叩いて振動を与えるのも有効です。最終手段として熱を加える方法もありますが、リスクが高いため慎重に。それでもダメならプロに相談を。
- Q2:必要な工具がない、どの工具を選べばいいか分からない。
- A2: まずはご自身のクランクの種類を正確に特定しましょう。メーカーの公式サイトや自転車店のウェブサイトで確認できます。それに応じた専用工具を購入してください。購入前に、工具の精度やサイズが合っているか必ず確認しましょう。
- Q3:ネジ山をなめてしまった。
- A3: 小さなネジであれば新しいボルトに交換できますが、クランクやBBのネジ山をなめてしまった場合は修理が非常に困難です。専用のタップで切り直すか、部品そのものの交換が必要になる場合があります。こうなる前に、適切な工具と慎重な作業を心がけましょう。
- Q4:適正トルクが分からない、トルクレンチがない。
- A4: ボルトの締め付けトルクは、クランクやBBのメーカーの取扱説明書に記載されています。安全と部品の保護のためにも、トルクレンチの購入を強くおすすめします。手トルクでの作業は、締めすぎや緩みの原因となり、思わぬ事故に繋がる可能性があります。
自信がない場合は迷わずプロの自転車店へ相談を
DIYでのメンテナンスは、ロードバイクへの理解を深め、愛着を育む素晴らしい体験です。しかし、無理な作業は自転車の破損や、最悪の場合、重大な事故につながる可能性もあります。
少しでも不安を感じたり、作業が困難だと感じた場合は、迷わずプロの自転車店に相談してください。彼らは豊富な知識と経験、そして専門工具を持っています。安全かつ確実に、あなたのロードバイクのクランク脱着を行ってくれるでしょう。
自転車のメンテナンスは、自己責任の範囲で行うことが大前提です。ご自身のスキルと判断力を過信せず、常に安全第一で作業に臨みましょう。
まとめ:ロードバイクのクランク外しは正しく行えば難しくない
この記事では、ロードバイクのクランクを安全に外すための準備から、主要なクランクタイプごとの具体的な外し方、固着時の対処法、そして取り外し後のメンテナンスやトラブルシューティングまでを詳しく解説しました。
適切な工具を揃え、ご自身のクランクの種類を正確に把握し、そして何よりも「安全第一」の精神で臨めば、クランクの脱着は決して難しい作業ではありません。DIYでメンテナンスを行うことで、愛車の状態をより深く理解し、自転車との一体感を高めることができるでしょう。
もし途中で壁にぶつかったり、自信が持てなくなったりした場合は、ためらわずにプロの自転車店に頼ることも大切な選択肢です。この記事が、あなたのロードバイクメンテナンスの一助となれば幸いです。